海中の財宝
参照 伊豆の伝説
白浜明神のお二方の神様は非常に仲睦まじく又大変憐み深い神様であった。
昔この神様が、今の白浜の地に初めて御出になった頃は耕すべき田畑も少なく、又魚類もあまりとれず、村の人々の生活は貧しく辛い毎日を送っていた。或る年、飢饉に見舞れた時は、村の人達はすっかり困りはててどうすることも出来なかった。
そこで、村人は海岸の洞窟の前に集ってよりより相談したが、何度集って相談してもよい考えは浮ばず、日毎に生活は苦しくなるばかりであった。その時この様子を御覧になられていた神様は「お前達はこの海の中に無尽蔵の財宝があるから、それを採ったらよい。」とお教え下さった。
 村の人達は大喜びで神様のお言葉通り、早速水泳達者の 「お せん」さんに海にもぐつてもらうことになった。女ながらもおせんさんは村のためになるのは此の時とばかり、大勢の村人達 の見守る中に手を振ってさっと波しぶきをあげ海中深くもぐって行った。
やがて浮き上って来たとき、おせんさんは両手に一パイの海藻をにぎっていた。これが今の天草で、その後村の女達はこの天草とりに全力を注いだ。このために村は救われ、理想郷、白浜が築かれる基となった。
 村の人達の明神様に対する尊崇の念はまことに篤く、祭礼は、毎年秋も爽やかな10月28日、29日、30日の三日間、盛大豪華に行われる。又此の祭典前日には必ず東風が吹いて、夜中に三宅島から「白い御弊」が流れて来て明神様の後方の洞窟ー「お釜」に入る。
そして祭典が終ると又、必ず西風が吹いて「御弊」はゆらゆらと島へ帰るとの事である。この御弊流しを村人は俗に「オンペイ流レ」と呼んでいる。
下田市の民話と伝説 第1集より