白浜だ!白浜だ!
参照 伊豆の伝説
 昔、白浜の或る人が旅からの帰り、河津(今の河津町谷津)までやってくると、川のほとりで大勢の人がワイワイ大騒ぎをしでいる。「ハテ何だろう?」と思って人垣の間からのぞいて見ると、可愛そうに河童がつかまっていじめられているのだった。
「河童の奴。何か悪い事をして捕まったのだな。見殺しにも出来まいよ。」と思って「まあまあ皆の衆、河童が何をしたか知らないがどうか勘弁してやっておくんなさい。」と詫びたが、中々きき入れてくれない。
むきになって怒っている老人の一人が「俺の孫がこの間この河で死んだのは、きっとこいつの仕業に違いない。許す事なぞ出来るもんか。」と言ってまたしても棒を振りあげる。
男は「まあまあ、御立腹はごもっともだが、誰も確かに見たわけでもないし、どうか今度だけは助けてやっておくんなさい。」と一心に頼むと「それじゃあ、今度だけはお前さんに免じて許してやろう。」と言って、みんなぞろぞろ引き上げて行った。そこで男は「もうこれからは悪い事をするなよ。
今度つかまったら命はないぞ。」と言いきかせると、河童はペコペコと頭を下げて「ヘイ、よくわかりました。これから気をつけます。ありがとうございました。あなたはどちらのお方ですか」と開くので「白浜の者だ〕と言うと「そうですか、ではこれから河を渡ったり、河で泳いだりする時には『白浜だ!白浜だ!』と二度おっしゃるように村の人たちに言って下さい。私たちの仲間にもよく話し、白浜の方には間違いのないようお守りします。
どうも有難とうございました」と言うと、どぶんと河の中へ飛びこんで行った。
 その日以来、河童の守りかどうか今もって白浜には、河で間違いのあった人はないということである。
下田市の民話と伝説 第1集より