吉佐美の宝徳院の裏山佛谷には、十六羅漢を始め地蔵様が沢山祀られている。それを村の人は「十六羅漢と三十三観音」と呼んでいる。
 そのお地蔵様の中に、ひざをかゝえ木洩れ陽の間から天を仰いで何かを念じていらっしゃる地蔵様がある。
 この地蔵様の前には一合瓶や二合瓶、ワンカップなど洒の瓶がいつも上げられている。お酒好きの地蔵様であろうか。いやいやそうではない。
 昔、村のある家に、若い頃は達者で働き者と評判の男があった。年をとってから足の病いにかかり、痛みのために歩くことも困難になってしまった。たまりかねた男は、思いあまった未、これでは仏谷の地蔵様にお願いして加護を願うより外はあるまいと、一升の酒を用意して仏谷の山によじ登った。さて、どの地蔵様にお願いしようかと、あちこち見廻していると、折よくひざをだいている地蔵様が目にとまった。「あゝ、このお地蔵様にしよう」。男は一升瓶を地蔵様の前に供え、「どうかお地蔵様、此の足の痛みがとれ、前のように自由に歩けるようになりますようお加護を下さい。御利益の暁には功徳を村人にも伝え供養を怠りません。必ず御恩報謝いたします。」と念じ、洒を地蔵様にかけ、痛む足にもその洒をかけてしばらく祈願をしていました。
 しばらくすると、足の痛みは和らぎ歩くのにもそんなに苦しくありません。残っていた洒を地蔵様に感謝しながらかけ、自分の足にもつけて帰りました。
 その翌日も、その翌日も、一升瓶を提げてお地蔵様に祈祈願したところ、すっかりよくなりました。
老人は地蔵様の功徳を村人に話して、足のいたみのある人はこのひざだき地蔵にお参りすることをすゝめました。
 それ以来、この地蔵様の前には半分程入った洒瓶が供えられるようになった。半分は持帰って、患部に塗るとよいのだそうです。
下田市の民話と伝説 第2集より