須崎小白浜の庚申堂(昭和53年改築)の近くは昔石材を切り出した所で、その跡に西国三十三所観世音菩薩が岩廂の下に安置されている。
 昔の人々が海上の安全や五穀豊穣、村内安全を願って、願主の大光万明僧(福寿庵住持)の発願に協力して三十三観音は完成を見たと云われる。
 三十三観音参拝の登り口の所には小さな祠があり、その中に石造朱塗りのエンマ様が安置されている。坐高74センチメートル、肩張り45センチメートル、膝張り91センチメートルあって、1個の擬灰岩で作られている。頭に頭巾を戴き、身には道服をまとい、右手に笏をもち恐ろしい顔をして睨みつけている。「嘘を云うとエンマ様に舌を抜かれる。」と恐れられた。
 エンマ様は冥界の王で、人の死後、其の生前の善悪を判じて賞罰を加えるという。地獄に落ちるのも極楽の園に遊ぶのも、エンマ様の判断一つにあったという。
 昔、須崎に力自慢の人がいて、近くの村で力くらべをした。
その村の人は、この大きなエンマ様を一人で運べたら、運んだ人にエンマ様をくれるという。須崎の力自慢の人はそれなら俺が戴こうと、この大きな重いエンマ様を軽々と抱きあげ、やがて背負ってここまで運んで来て庚申堂に安置したと伝えられている。人間業とは思えない大した力もちであった。
 それ以来、須崎には嘘を云う人や、悪い事をする人はなかったという。
下田市の民話と伝説 第2集より